【終了】vol.8 紅雲町珈琲屋こよみ8「皐月の嵐に」

2016.5.13~14@下北沢亭

ポンヌファンで行われた、勅使河原先生の文化賞受賞パーティーを手伝いに行った草は、そこに集まる疑惑の中心人物たちを見つめながら、コーヒーを淹れる。


そんな時、嵐の中、ひとりの男がポンヌファンを訪ねてきた。予約したというが、今夜はパーティーで貸し切り。男はバイク事故で人に対して記憶がまだらになっているので、今回も自分が間違えたのだろうと言う。連れの女性を待つという男は個室に通され、草に女性の名前を訊いて内緒で教えてほしいと妙な頼みごとをする。彼女の名前がどうしても思い出せないが、別れるにしても最後は名前を呼びたいという男の頼みを断り切れず、草は遅れてやって来た女性の名を確かめ「芳賀明(あかり)」と書いたメモを男にそっと渡した。


その後、草は研究会の会員同士の内緒話を偶然聞いてしまう。彼らは、ゲンエイ円空仏は偽で、勅使河原先生が仕掛けたものだと言う。草が詳しく訊ねるとその会員は、見つかった木仏は円空作だが、盗品を源永寺から発見されたように装ったのだと言い、科学調査が入る前に盗まれたのもそのせいだと草に話す。


激しい雨のため停電となった店内にロウソクの火が灯りはじめた頃、個室の男女が争う声が聞こえて来る。草が様子を見に行くと、女性の本当の名前は「明(めい)」。女性は草に名を聞かれた時とっさに名前を訓読みにしていたのだった。草を使って名前を確かめさせたことに怒った女性は、子連れで離婚し、男と結婚する準備をしたのに別れようとする男をなじる。男は何も思い出せないと苦しい胸のうちを訴えるが女性は聞き入れない。草は女性に詫びたが、後からやってきたミナホが思わず「いいな…何も覚えていないなんて」とつぶやいてしまう。草は「言葉どおり、お二人がうらやましかったのだと思う。思い出せないなら、今から始められる。つい自分のことに置き替えてしまったのだろうから許してやってほしい」と代わりに謝る。雨がやみ、パーティーが終わった時には、個室の二人の姿はなかった。


パーティーからしばらくたってから、草は、パーティーでゲンエイ円空仏は偽だと言っていた会員から連絡をもらい、過去の事実を知る。それによると、萩尾が18歳の時にゲンエイ円空仏を発見。それを勅使河原先生が横取りして自分の発見として発表。しかしその裏には、ゲンエイ円空仏を仕込んで萩尾に発見させた謎の人物の存在があったことに、草は気付く。


一方、田中青果店のみつさんから、源永寺の前住職は生臭坊主で、寺にある一切合切を売り払って夜逃げしたと聞いた草。それなら、なぜ一体だけ円空仏が残っていたのか、さらに疑惑が深まる。


草は、以前県立博物館のボランティアをしていた嶋田という独居老女を訪ねる。彼女は以前、父親の遺品の中から出てきた円空仏の偽物を、勅使河原先生の研究会に所属する博物館の学芸員・藤田に買ってもらったことがあった。草はそれがゲンエイ円空物に仕立てられたのではと疑い、写真を見せて嶋田に確かめようとする。その途中、嶋田から見せられた古いアルバムの中に、仲が良さそうな藤田とミナホの写真を見つけ、驚く草。果たして嶋田はゲンエイ円空仏が、藤田に買ってもらった仏像に似ていると証言する。


ゲンエイ円空仏を源永寺に仕込み、萩尾に発見させたのは藤田だった。そしてそれを自分の発見として横取りした勅使河原先生…ミナホの悩みは、そのことをすべて知っていたのに黙っていなければいけなかったことではないのかと、草は気付く。後になって萩尾がそのことを知って、ミナホを逆恨みしているのではないかと。


少し経ってから、ポンヌファンにいた男女の客が小蔵屋に草を訪ねてくる。二人はその後話し合い、付き合い続けることにしたと言う。草に言われた「思い出せないなら、今から始められる」という言葉が忘れられなかったのだと言う幸せそうな二人に、草は萩尾とミナホを重ねる。


草はミナホに、過去の事件をすべて知っているから、一人で抱えて悩まなくていい、という手紙を書いて投函する。翌日、田中青果店のみつさんから、源永寺の本堂に小蔵屋の紙袋に包まれた仏像を置いたのは草かと訊ねる電話が入る。翌朝草が源永寺に行ってみると、何者かに盗まれたはずのゲンエイ円空仏が、なぜかそこにあった。草は仏像を持って小蔵屋に帰る。今まで誰がこの仏像を持っていたのか。今回はなぜ小蔵屋の紙袋に包んで源永寺に置いたのか。ゲンエイ円空仏は、草に何を伝えたいのか…。